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渡瀬恒彦の遺作となってしまったドラマ『そして誰もいなくなった』の感想

ドラマミステリ

【3.27 加筆しましたので、第二夜後半のネタバレに注意!】

アガサ・クリスティーの名作ミステリ『そして誰もいなくなった』がスペシャルドラマになった。

とても楽しみにしていたのだけれど、出演している渡瀬恒彦が先日亡くなった。

このドラマが遺作となってしまった。番組冒頭に追悼文が出た。

渡瀬さんの刑事ドラマをよく観ていたんだよね。「十津川警部」とか「おみやさん」とか「9係」とか。

なんだかまだ信じられない。

近年に亡くなった著名人たちのように痩せ衰えた姿を見ていないからだな。

ドラマを観ても「なんだか老けたなぁ」とは感じるが、そこまでお悪いようには見えない。

しかし、話し出すと滑舌が良くなくてセリフがうまく言えていないところもあって、どうしても気になってしまう。目付きも少しおかしい気がする。

「亡くなってしまったんだなぁ…」という気持ちがつきまとい、ドラマを素直に観られなかった。

第一夜

冒頭、殺人事件が起きた兵隊島について語るナレーターが石坂浩二だ!

これから明らかになる事件への興味が高まる。

兵隊島へ向かう捜査員たちを乗せた舟の先頭に立つのは警部役の沢村一樹

原作には出てこないオリジナルキャラクターだ。

え、もう出てくるの?

と思ったけどすぐにオープニングが流れて、時間が事件前に戻って兵隊島のホテルへ向かう招待客を乗せた舟のシーンになった。

素敵な洋館のホテルで非日常の優雅な日々を過ごすはずの招待客たち。

しかしBGMにはすでに不穏な空気が流れていて緊張感がある。

ホテルに着くと携帯電話などを没収される。原作の時代には無かった文明の利器である。島外との連絡手段を奪わなければ絶海の孤島にはならない訳だが、それだけでは不十分な気がするが。

そして、なんとドローンが飛来する。4日に一度新聞を運んでくるというのだが、必需品などは舟で定期的に取り寄せるのではないのか? そのついででもいいような気がするが、ドローンでなければならない理由があるのだろうか。なにかの伏線か?

部屋には事件の肝であるマザーグースの詩…、じゃなくてホテルの先代オーナーが酔狂で作った数え歌の額が架かっている。

「小さな兵隊さんの唄」

小さな兵隊さんが十人
あわてん坊がごはんをたべて
のどを詰まらせ 九人になった

九人の小さな兵隊さん
ねぼすけ小僧がねぼうして
ねむったままで 八人になった

八人の小さな兵隊さん
舟出しようと浜に来て
ひっくり返って 七人になった

七人の小さな兵隊さん
働き者が薪割りをして
自分を割って 六人になった

六人の小さな兵隊さん
食いしん坊がハチミツなめて
ハチに刺されて 五人になった

五人の小さな兵隊さん
しっかり者がお白州に出て
お裁きを下して 四人になった

四人の小さな兵隊さん
魚釣り好きが海に出て
波にどんぶら 三人になった

三人の小さな兵隊さん
力自慢がはっけよい
クマさんに負けて 二人になった

二人の小さな兵隊さん
いたずら坊主が焚火して
火種がはぜて 一人になった

一人の小さな兵隊さん
さいごの一人が首つって
とうとうお山は だあれもいない

原作では「10人のインディアン」である。「インディアン」という言葉が現在では不適切で「ソルジャー」と変えられることがあるようなので「兵隊さん」になったみたいですね。

ディナーに集まった食堂には、頑丈なケースに収まった兵隊さん人形が10体。

ホテルには招待客8人と、ホテルの執事夫婦の2人。あわせて10人。

10人を呼び寄せたオーナーとはいったい何者なのかと話し合っていると食堂に謎の声が響き渡り、10人がそれぞれ過去に人を殺したという罪状を告発しはじめた。

ただならぬ雰囲気が立ちこめる中、執事夫人が卒倒してしまう。

気分直しに場を移し、酒を飲む招待客たち。

10人の言い分は、確かに人の死に関わったことはあるが殺人には当たらないものばかりである。

そしてついに死人が出る!

酒を飲んでいた向井理が突然苦しみだし倒れた。

毒死である。まさか自殺か? チャラチャラした最年少が早々に退場。

向井理の演じた役は元アマチュアボクサーの推理作家。

5年前に路上で絡まれトラブルになっていたサラリーマンを誤って殴り殺していた。

原作では、遊び好きの青年が自動車で子供2人をひき殺したことになっている。

こんなに人物設定を変更されているのは彼だけである。

現在なら例え過失が無かったとしてもただでは済まないからだろうか。

さて、非常事態が起こり島から脱出するために、預けた携帯電話を執事に要求する客たち。

しかし金庫の中から出された携帯電話はバッテリーが抜き取られていた。いったい誰の仕業なのか?

不安が広がる中、なす術なく朝を迎える。

そして第二の死人が!

卒倒して休んでいた執事夫人役の藤真利子が起きてこない。毒死していた。

いつの間にか人形が8体になっていた。開けることができないケースから誰がどうやって取り出したのか。数え歌の通りに死人が出ていることに気がつく人達。

島のどこかに犯人が隠れているのか?

それとも残る8人の中に?

第三の死人は元国会議員役の津川雅彦

浜でひとりで海を見ているうちに撲殺されていた。

不思議なことは他にも。執事室の前に掛かっていた「のれん」と客の持ち物の「毛糸」「釣り竿の先端」が無くなっていた。訳が分からないまま3日目を迎える。

朝食の支度は出来ているが執事の姿が見当たらない。

人形がまたひとつ消えている。

第四の死人は執事役の橋爪功

薪割りの途中で頭を割られて死んでいた。

第五の死人は元銀幕の大スターを演じる大地真央

朝食後に部屋で休んでいる間に殺された。首筋には注射の跡。窓の外にはハチの巣が付けられていた。

残るは五人。

もう誰も信じられない。

日が暮れてきたが電気が点かない。元傭兵役の柳葉敏郎が外の発電機を見に行くが、とりあえずランプでしのぐことになった。

部屋で休むと2階へ上がって行った仲間由紀恵が悲鳴を上げる。他の客達が駆けつけるが元判事は上がってこない。

第六の死人は元判事役の渡瀬恒彦

元傭兵が持ち込んでいて所在がわからなくなっていた拳銃で心臓を撃たれていた。さらに無くなっていた「毛糸」と「のれん」と「釣り竿」でチョンマゲ姿のお奉行様にされていた。

そういえば、ホテルにやってきた時に洋館にふさわしくない「のれん」を見て、年代物で「遠山の金さん」の時代の物だと言っていたのがすごく違和感があったのは伏線だったのか。

外から元傭兵が戻ってきた。

すでに6人も殺されてしまった。いったい誰の犯行なのか?

警察が島に上陸するのは、さらに4日後。

10人の死体が発見されたという。

第二夜では、さらに4人死ぬことになる。

どのように死ぬのか。誰が犯人なのか。

そしていよいよ、原作には出てこない刑事たちの捜査が始まる。

第二夜

前回のあらましを語るナレーションの後、オープニングが(まさに海面を)流れる。

そしてやはり、孤島に向かう捜査員が上陸するところから始まる。

まだ全員死んでないけど?

もう捜査するのを見せるの?

と思ったら、元判事の部屋の窓の外で拳銃が発見されたところで、時間軸は4日前に戻った。

前回のラストで家庭教師役の仲間由紀恵の悲鳴の後に、元判事の死体が見つかるところをもう一度見せられる。

どうも医者役の余貴美子の言動が不自然だ。

これまで3人が毒殺されていることから医者が疑われていたが、人数も絞られてきていよいよ怪しくなってきた。

家庭教師が悲鳴を上げたのは、窓辺にぶら下がっていた濡れた昆布に気付かずに触れ、首を絞められたと勘違いしたからだ。昆布は手の形になっていた。今回は殺されるのではなく、いたずらに終わったのは何故だろう。

各自が部屋に戻って休んでいる時、廊下に不審な足音が聞こえた。

そして医者が行方不明になった。人形もまたひとつ消えた。

医者は死んだのか? それともどこかに隠れているのか?

翌朝、残った3人は海辺で鏡を使い外海へ助けを求めようとしていたが成果は無かった。

昼食を調達しにホテルへ戻った元刑事役の國村隼が戻ってこない。

探しに行くと道端に倒れており、ホテルにあったクマの置物で撲殺されていた。

やはり医者がやったのか? 医者はどこに?

2人が海へ探しに行くと医者はすでに溺死していた。では誰が?

おびえた家庭教師は元傭兵にしがみつく…

と見せかけて懐から拳銃を奪う!

錯乱した家庭教師が元傭兵役の柳葉敏郎を射殺する。

うわぁ、殺しちゃったよ。

でもじゃあ、これまでの犯人は誰よ?

1人になった家庭教師役の仲間由紀恵は過去の罪にさいなまれ、ホテルに戻ると何故か用意されている縄で数え歌のように首を吊ってしまう。

と、そこに謎の人影が!

「そして誰もいなくなった」はずの島に、4日ぶりにドローンが新聞を運ぶ。

その夜、ホテルのチャーター船「アガサ」の船長に救助要請のメールが届き、通報を受けた警察が翌日島に上陸し10人の死体を発見する。

さらに翌日、警視庁の警部役の沢村一樹が上陸。

所轄の刑事達(荒川良々夏菜ら)と共に捜査が始まる。

無くなっていた人形が、空になったケースの上に並んでいた。

警部はすぐに仕掛けを見抜きケースを開けてしまった。

帽子を手にしたままで変わり者っぽい警部、なかなかの名探偵のようだ。

10人はどのように死んだのか。

奇妙な事件を犯人からの挑戦状ととらえた警部の指示でホテルの大捜査が始まった。

すると、至る所に隠された62台の小型カメラが発見された。

えぇぇ…

だって、謎のオーナーを探しまわってたでしょ。連続殺人がおこって疑心暗鬼になり、持ち物検査で部屋中調べてたでしょ。なんで見つからなかったのさ。

カメラ映像を解析し、事件の時系列が判明した。

しかし殺人の証拠を映した映像は見つからなかった。

原作の1930年代の世界から、一気にハイテクの現代へ呼び戻された気分だ。

※これ以降、事件の真相に触れます。

6番目に殺されたと思われた元判事が実は最後まで生きていて、拳銃自殺をしたことを推理した警部は、拳銃が発見された場所からカメラのメモリーカードと、さらに元判事の部屋の天井から隠しカメラを発見する。

パソコンで映像を再生すると自殺する前の元判事が映っていて、自殺のトリックを明かした後で驚愕のセリフを言うのである。

「私は末期の肺ガンだ。余命幾ばくも無い。」

!!!!!

「ありがとう。そして、さようなら…」と言って胸を撃ち、映像は終了した。

…………、

実際に余命宣告を受けていた渡瀬恒彦が、どういう気持ちでこのセリフを言ったのか!

胸が詰まる思いがこみ上げて、目頭が熱くなる。

警部はまだ何かを考えていて、パソコンの再生ボタンを押すと映像にはまだ続きがあった。

元判事が自宅で酸素吸入器を付けながら、謎のオーナーの名を借りて事件を起こしたことを告白する映像だった。

告白の途中で痛み止めの薬を飲んだり苦しんだり鬼気迫る演技に、もう演技か現実か分からなくなってきて痛々しい。

事件の計画をすべて話した元判事。

「これは芸術だ。私が作った最高傑作の芸術だ。」

まさにこのドラマが最高傑作の芸術になった瞬間であった。

このドラマが渡瀬恒彦の遺作となったのは偶然なのか。運命の巡り合わせとはこのことか!

原作を読んでいたから元判事が犯人であることは知っていたが、このラストは驚愕である。

なにしろ原作では、告白文を書いた手紙をビンに入れて海へ流すのである。

現代日本を舞台にこの現実離れしたミステリをドラマ化することに少し不安があったのだが、ドラマ史に残る素晴らしい出来であったと思う。

ただ、主演は仲間由紀恵と宣伝していたはずだが、影が薄くなってしまったな。

※配役の解説はコチラの記事もどうぞ!

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