先日、嵐の二宮和也主演でドラマ化されたばかりの『坊っちゃん』は夏目漱石の小説が原作だ。
名作ゆえに何度も映像化されてきているけれども、私のイチオシは1980年のアニメスペシャルである。
80年頃はアニメ黄金期で、テレビ用の長編アニメがよく放送されていた。24時間テレビでも手塚アニメをやっていた時代だ。
日生ファミリースペシャル『坊っちゃん』
東京ムービー新社(現:トムス・エンタテインメント)制作
監修は出崎統
キャラクター原案は『ルパン三世』のモンキー・パンチ
作画監督は杉野昭夫、美術監督は小林七郎と、名立たるスタッフが勢揃いしている。
有名な書き出しで始まる「坊っちゃん」の生い立ちが久米明のナレーションで語られる。
二階から飛び降りる武勇伝。
坊っちゃんが四国松山の中学校へ数学教師として赴任することになり、世話をしてくれていた「ばあや」の清(きよ)が駅に見送りに。麻生美代子(『サザエさん』のフネ)が演じるやさしく可愛らしい清との別れのシーンにグッとくる。
主題歌には島崎藤村『若菜集』の詩が使われ、数多くのアニメ主題歌を作曲した渡辺岳夫によって実に叙情的な曲に仕上がっているが、映像は坊っちゃんが松山へ向かう道中がコミカルに描かれている。
切符を切りにきた車掌さんが指をはさんで『天才バカボン』の本官さんになった!
いよいよ松山での教師生活がはじまる。
坊っちゃんを演じるのは西城秀樹。「ヤングマン」の翌年だ。
あーあ、声優素人の歌手にアフレコさせちゃったパターンか、と思うなかれ。
なかなかどうして血気盛んな若者を好演している。(秀樹好きのひいき目があるのは否めないが)
それに素人を主役に起用した場合の定石として、周りの配役はベテラン勢で固められているから安心だ。
校長のたぬき=永井一郎(『サザエさん』波平)
サザエさんから夫婦で起用されてる。フジテレビだからね。
教頭の赤シャツ=八奈見乗児(『ヤッターマン』ボヤッキー)
お高くとまった嫌みな感じがピッタリ。
野だいこ=田の中勇(『ゲゲゲの鬼太郎』目玉おやじ、『天才バカボン』本官さん)
太鼓持ちがすっげーウザい。
うらなり=山田康雄(ルパン三世)
顔色悪過ぎぃ! おどおどした役もうまい。
山嵐=納谷悟朗(『ルパン三世』銭形警部、『宇宙戦艦ヤマト』沖田艦長)
豪胆な正義漢がハマってる。
生徒のチビ=野沢雅子(鬼太郎、『銀河鉄道999』鉄郎、『ドラゴンボール』孫悟空etc.)
坊っちゃんに魅かれている生徒でアニメオリジナルキャラ。
ちょい見せ「坊っちゃん」| First Look “Botchan”(1980)
初めての授業。
早口でまくしたてる江戸っ子の坊っちゃんと、「○○ぞなもし。」とゆるゆるしゃべる生徒との対比が面白い。
生徒から数学の難題を出される。
『ルパン三世』のサブタイトルでお馴染みの、タイプライター音とともに一字ずつ表示される演出も使われている。
やることなすこと茶化されて激怒する坊っちゃん。
随所で歌舞伎調のイラストに変貌する滑稽な演出がアクセントに。
道後温泉でマドンナとの出会い。
あわてふためき、湯の中で頭ゴッツン!
マドンナは一切セリフがなく、謎のベールに覆われた魅惑の深窓令嬢。色っぽいねぇ。
宿直イナゴ事件。
出崎アニメといえば『あしたのジョー』『ベルサイユのばら』などでも多用されている劇画タッチの止め絵の演出が印象的で、この作品でも効果を発揮している。
この後は、うらなりの送別会とか生徒達の大乱闘とか赤シャツへの天誅とか、盛りだくさんの大活躍。
でも結局は山嵐と共に辞職する坊っちゃんが船で松山を離れる場面で、チビが粋なはからいをするラストは感動ものである。
35年も前の単発アニメだけれど、忘れられないお気に入り作品のひとつなのです。
DVDは現在入手困難になっているので、配信かレンタルで機会があればぜひ観てほしい名作です。
ちなみに日生ファミリースペシャルでは『坊っちゃん』のあとも日本文学作品のアニメを何本か放送していて、81年の『姿三四郎』でも西城秀樹が主役を演じてます。
二度起用されてるってことは好評だったんですよね? ね!
【追記】Amazonビデオで試聴できるようになりました。
【追悼:2018.5.17】